語弊だらけの四方山話の会(仮)

/localhost:8118/

<こうしん>


2011/07/06
『東方運命』の[5 かぐや姫の日常(後編)]を掲載

2011/06/28
『リリカル運命』の[1−13]を前後編合わせて掲載

2011/02/08
改訂版『ネギま運命』の[8]を中途半端に掲載

メニュージャンプ





狐火。
怪異に取り憑かれることで開花した――してしまった妹紅の異能は、彼の代名詞とも言える火を生むというものでした。
いずれは操れるようにもなるでしょうが、今はこれっきり。
現状は、己の内に在る無形の力の自覚と統御、瞑想からの自失状態での自己制御の確立が課されていました。
対して――

「よっ――ほ」

――輝夜。
彼女が己の力を自覚したのは人の生に収まらない程度には古(いにしえ)であり、既に己の手足を操る程度には物しておりました。
ひょいと己が投げた玉砂利の一粒を、移動を須臾にし己で掴み取り、ふふんどうだと振り向く輝夜に衛宮は一言。

「ああ、じゃあその調子であと100回連続な」

輝夜はいささか頬を引き攣らせ、妹紅はその反応に吹きかけた笑いを慌てて押さえこみました。




日が中天にかかるほどまでを藤原の屋敷でのんびり過ごし、衛宮はぐったりとした輝夜を左腕に抱き上げて市を歩いて回りました。
竹の地のままに細かい細工が施された櫛や盆、漆塗りの椀、木彫りの仏像や動物像、金属の鏡、などなど。

「興味無しか」
「余裕無しよ」

見て宛がって褒められて、されど全てに無反応で通す輝夜の様に、衛宮は少し困ったように苦笑しました。
屋敷で菓子も供されたためしばし悩みましたが、とりもなおさず腰を落ち着けるべきかと判じ、衛宮はゆったりとしつつも速い歩みで茶屋に向かいます。

「おやじさん、団子3種4つずつ」
「……(こくり)」

入り際に店主に注文を告げて、衛宮は影と日向の境の長椅子に影側になるように座りました。
少し考えて、結論を出すより先に膝に手をかけてきた輝夜に口元を僅かに緩め、席を深く、両膝を大きく広げてその間に輝夜の腰を据える事とします。
疲労故の溜息を吐く輝夜にぱったりともたれかかられて、衛宮は結局傍目にも分かるほどに頬を緩めました。
落ち着いて今更未練が出たのか、市で見た品々についてぼそぼそと話題にする輝夜に相槌を打ちつつ、程なく衛宮は届けられた茶と団子の皿を受け取りました。
未だ食前の挨拶としてはそれほど一般的でないため、声に出す事は省略して軽く両手を合わせ、先ず衛宮は簡素な見た目の塩のものから手に取り口へと運びます。
一方、輝夜が手に取った串は鮮やかな緑の団子でした。

「ん、美味い」
「けれど、士郎の菓子に“馴”らされてると素朴な感じがするわ」
「……、餌付けしてるんじゃないんだぞ」
「あら、良く分かったわね」
「はあ、元気になったようでなによりだ」

ややわざとらしく溜息を吐いて、衛宮は2本目の串に手を伸ばし、口へと運ぶ途中でその手がするりと捕らえられました。
青年が唖然とするうちに両手を衛宮の腕に絡めた輝夜は腰掛けを彼の膝上へと移し、これ見よがしに口を開いて見せます。

「あーん」
「…………ん」
「ン……むく……ん。次はお茶もらえるかしら?」
「――はいよ。仰せのままに、お姫様」

これ見よがし、媚びるような笑顔で要求してきた輝夜に、衛宮は口端を吊り上げた笑顔を作り答えるのでした。




衛宮と輝夜が家へと帰ると、その門前にやや大きめな人影がありました。
大きめの影は決してふくよかという訳ではなく、背中を覆う程に豊かな黄金色の尾が大半を占めており、この時点で無論のこと人間ではありません。

「よう、藍……いや、社から離れられないんだから、もしかしてオサキか?」

ゆったりとした青い着物を纏う、つい最近衛宮が久しぶりに会った狐の妖怪の風姿は、訊ねにゆるゆると首を横に振りました。
ちらりと彼の腕に抱かれて欠伸を噛み殺している輝夜を見やり、本当に親子みたいなんだなとぽつり呟いて微笑します。

「おかえり。さて、まあ、確かに本体ではないけど……先日力を込めた剣があっただろう?」
「ああ、勿論覚えてるが、それで?」
「今ここにいる私はその“剣”だよ。目に映る姿は幻術だ」
「へえ……」

目を丸くし頷いた衛宮はしばし停止。
じっと注がれる視線に、幻術と謳ったものの特に違和感も無く藍は恥じらうように頬を赤らめ、その反応とそれを頓着する様子も無い衛宮に輝夜は小さく溜息を吐きました。
抱き上げられているがために酷く近い青年の頬に輝夜はそろりと指先を伸ばし、しかし何かするより先に衛宮が少々疲労を感じさせる息を吐きました。

「なるほど、確かに芯に薄らあの剣が視えたよ。しかし、ちょっと前まで1町(約109m)離れられるか離れられないかだったのに、随分と進歩したもんだな」
「ああ、それは、」
「――む、待った」

人差し指を立てて説明に入ろうとした藍を、衛宮は不意に片手をあげて制止しました。
首を傾げる半神半妖に目を泳がせ、ちらりと腕の中に視線を遣ります。
彼の服の襟元をその小さな左手でぎゅっと掴み、くぅくぅと寝息を立てている輝夜がいました。

「済まないが、輝夜を寝かせてからにしよう。ああ、うん、せっかく友人が家に来てくれたんだ、茶も出したいしな」
「それは、ありがたく頂くけれど……『過保護なんだもの』よねぇ」

口を袂で押さえて小さく笑う藍に、衛宮は何か言おうとして……少しの反省を選択し、結局やめたのでした。
それが輝夜が容易に疲れてしまう――彼女が大きくなろうとしないのも要因ではありますが――普段の生活をも指しているのだと察して。




一言で言ってしまえば、“神の格が広がった”というのが要因でありました。

「まあ、力の量の多寡としてはいささかも変化していないのだけれどね」
「そうなのか? ――ああ、そうか。藍が縛られてるのは神として祀られてる側面だもんな」
「んー、こういっては何だけれども、私は神の皮を被った妖怪だろうね。端的に」
「神社に寄生されてるのか」
「“規制”だけにね」
「……っ、く、何を言ってるんだと言ってやりたいが、唐突にツボを突いてくれたな……」
「妖怪狐はそれが本分ですわ」
「……九尾ともあろうものが何を言ってるんだか」

尾を揺らめかせてくすくすと笑声をこぼす藍に、衛宮も呆れたように息をこぼします。
すると彼女はにんまりと笑い、そこから一転真面目くさった表情を作り上げました。

「『化かす』とは、心迷わせ狂わせ誑かすこと。……おお? もしかして、もしかして?」
「横目で見るな尾を伸ばすな先でつつくなくすぐったい」

衛宮は手の先で尾の先を叩き払い、何やら意味ありげにしなを作って視線を送ってくる藍に溜息を吐きます。
彼女の空になった湯呑みに急須を傾け、次いで自身のものにも注ぎ足してから衛宮は首を横に振りました。

「さておき。……力を俺が借りればそれで藍の不自由が緩和されるはずだったというのは、なんというか、酷く力が抜ける事実だな」
「その貸した力を神らしく人間のために使ってもらう必要はあったけれどもね。それに、今でこそ4割程度の力は扱え統御できるが……ここだけの話な恥、一番初めに出したオサキなんか無残な有様だったよ」
「初めてなら別に恥じる必要――ああ、まあ、九尾だもんな」
「そう、『九尾ともあろうものが』よ」

くすくすと、彼の言葉をもじって可笑しそうに笑う藍に、

「(まあ、かなり嬉しいんだろうし、口に出す苦言などありはしないが……)」

普段と比べ随分緊張が緩んでるものだなと内心だけで小さく溜息を吐くのでした。




ゆるゆると、裏山より下りて来た風が注ぎ込み、1本だけの竹を撫で、屋根を滑り、庭を垣に沿って駆け抜ける。
――その最中に湯上りの身を浸して、衛宮と輝夜は火照った肌を冷ましておりました。

「良い湯だったわ」
「とはいえ、……もうすぐ夏だなぁ」

川も山も比較的近いから、まだましな方かもしれないがと付け加えつつ、衛宮はゆるりと団扇を扇ぎます。

「でも」
「ん?」
「こうして月日の移り変わりを肌で感じられるというのは、やっぱり私にとっては新鮮な気がするわ」
「――……そうか。気に入ってもらえたなら、地上に住む人間の1人としては、やはり嬉しいかな」
「そうね、気に入ってるわ」
「そうか、なによりだ」

さわさわとそよぐ青竹。
そのおよそ2月という時間の経過を感じさせないものに何となく意識の焦点を合わせて、しかし特にきっかけも無く切って衛宮は視線を夜空へと向け直しました。

「……『地上に住む人間』、ね」
「うん?」
「私が言うのもなんだけれども、士郎は世間ズレとか以上に異邦人っぽい気がするわ。月と地上、――あるいはそれ以上の規模で」
「ふむ。あるいは輝夜の勘が特別鋭いのかもしれないが、現時点では単純に、生きてる時間が異なってるだけだと思うけどな」
「士郎に似た人間なんて、私も見たことないけれど?」
「といっても、輝夜の世界は狭そうだからなぁ」
「なら広げてくれるかしら」
「俺が?」
「士郎が」
「……ふむ、それも良いかもな。色々と考えておこう」

生真面目に頷く衛宮に、輝夜はくすりと笑い、目を瞑り、彼と共に生きる世界に思いを馳せました。
明確なものは何も思い浮かびませんでしたが、きっと何もかも新鮮で、この髪に触れる手のように変わらず優しく身近にあるのだろうと――

「ふふ、楽しみね」

――近づく雑音を今だけは無視して。








入り口
更新履歴
イラスト
らくがき
ログ
BBS
ゲストブックのログ
リンク
東方系お気に入りまとめ
憂鬱運命

異世界放浪士郎解説




更新停滞中 ( ̄〜 ̄)
inserted by FC2 system